犯人は田中殺人事件【短編】

ほんの少し前まで船酔いで最悪のコンディションだったのだが、船で胃の中の物をキレイさっぱりリバースしたせいで落ち着いたら空腹を感じていたので、ほろ酔いで気分よくクラブハウスサンドを食べ進めていると何やらラウンジの方で女性どうしが言い争うような声が聞こえてきた。

「アナタが悪いのよ!」

これは田中氏のようだ。

「やめて!」

こちらは1ヶ谷氏だろうか。

全くコチラは優雅に食事を楽しんでいるというのに大声ではしゃぐとは無粋な方々だ。まるで刃傷沙汰でも起きているかのような騒ぎであるが、今は目の前のビールを楽しむ事が重要なのは誰にとっても明らかだ。

私はより重要な物事がある時、それ以外を頭から遮断する事ができる。もちろんこの時もそうしてラウンジから聞こえる声を無視してガッツリとビールと食事を楽しんだ。

いつの間にかラウンジが静かになった頃、私も食事を終え意地汚く……もとい、名残惜しげにビールのグラスを口の上で逆さまにして最後の一滴まで摂取しようと努力していると、先ほどの騒ぎを聞きつけたらしく他の面々もラウンジに駆け付けたらしいのがわかった。

仲間外れはイヤなので私もしぶしぶラウンジへと行く事にした。

そして冒頭のシーンを目撃する事になるのである。