「!……お疲れ様です、サトコです」
思いがけないタイミングでケータイに電話がかかってきた。あわててそれを取る。
『…お疲れ様です。75分の《お仕事》です』
ぼそぼそしたしゃべりかたで男の声が告げる。

75分。

90分よりは短く、60分より手取りが多いその時間が、あたしは《お仕事》がやりやすくて好きだった。さっきまでの苦笑いが、今度はにんまり笑顔になる。
「わかりました。場所はどこですか?…はい、コスチュームは3番で。じゃ、ホテルの前ついたらまた連絡します」
ぱたんと勢い良くケータイを閉じる。
「よっし、がんばるぞー」
自分にゆるい気合いを入れて、いそいそ準備をする。ローションとグリンスとイソジン。それに名刺(でも、めんどくさくて渡したことはない)。
それから、衣装。

(3番のコスチュームって…おっセーラー服!)

今まで着たことのなかったタイプだったので嬉しい。それらをまとめてカバンのなかに突っ込むと、あたしはいくらか早足で《お仕事》の場所へ向かう。

(あのホテルあんまり行かないからなー。たしか、あそこのコンビニの脇の道だったっけ?…うん、合ってた)
目的地が見えてきた。少し早いけど、もう連絡してしまおう。