『でも、じゃあ何で今は気配感じないの?』


今もこうしてお父さんはそばにいるのに、お母さんは全く気配を感じていないようだった。

もちろん生きていた頃の私も感じていなかった。


『何も感じないのは、成仏したからだよ。後は……お母さんが幸せだからかな?』


お父さんは、お母さんを温かい目で見ていた。


『真子が結婚して、琴美が産まれて、お父さんの事を思い出す暇も無いくらい、幸せだったって事だよ。』


琴美といる時のお母さんは、確かにいつも笑顔で幸せそうだった。

だけど、お父さんの事、一日も忘れたことないと思うよ?

でもお母さんがもし、私と琴美がいて幸せだと思ってくれていたなら、私は、そんなお母さんから幸せを奪った。

最低最悪の、親不孝者だ。


『真子、お母さんにはお父さんがついてるから心配しなくていい。』


『でも……お父さん見えてないし!』


例えそばにいても、生きている人に姿が見えなければ意味がない。


『大丈夫だ、見えてなくても……』


『今はお父さんの気配は感じないけど、でもそばにいるのは分かるのよ。変って思うかもしれないけどね、私はそう思うの。』


お父さんは、お母さんの言葉を聞いて「ほらね?」っとどや顔をした。

はいはい、夫婦の絆ってやつですか?

子供に見せつけてくれなくても……

正直、うらやましかった。

私たちにもそんな絆、あるのかな?


『真子も、ここに……いるんですかね。俺には気配なんて感じないんですけど。』


ボソッとつぶやいた耕平は、抜け殻の私を見て、静かに涙を流した。

少しだけでも霊感があれば気配を感じる事が出来るみたいだけど、耕平には全く霊感はないようだった。


『きっと、そばにいるわ。怒ってるかもしれないわね?泣いてないでご飯食べなさいって!』


『……はい、いただきます。』


別に怒ってないけど……

でもお母さん、ありがとう。

ご飯を食べる事、そんな簡単な事も出来なくなる事を、私たちは知っている。

だんだん痩せていくお母さんに少しでも食べて欲しくて、私は頑張って料理を作った。

一番辛いのはお母さんだから、私が支えなくちゃいけないと思って、来る日も来る日も料理を作った。

耕平、あなたは一人じゃないよ?

支えてくれる人がいる。

親に心配させたくない、いつもそう言って頼らずに来たけど、耕平のご両親も、私のお母さんも、幽霊だけどお父さんも、耕平の事を思っているよ?

もちろん、琴美も、私も……ね?

だから、そんな悲しい顔しないで?

私の事、笑顔で見送ってよ?

私は今だって、幸せなんだから……