『奥様の体力が限界に近いので、陣痛促進剤の準備を始めますね。』


意識が遠のいていきそうな中、助産師さんが耕平にそう説明していた。


『お、お願いします!』


耕平は、だんだんと弱々しくなっていく私を見ては「大丈夫、もう少しだ!」と言って声をかけてくれている。


『うん……でももう……』





陣痛が始まったのは朝方4時すぎだった。

生理痛みたいにギューっとほんの少し痛む程度。

これが陣痛なのかも分からず不安だったけど、とりあえず痛くなり始めた時間をメモした。


『陣痛、始まったかもしれない。』


起きてきた耕平にそう言うと、ついにこの日が来たか!っと言わんばかりの嬉しそうな表情をしている。

だけどその顔とは裏腹に、いても立ってもいられないのか、部屋を行ったり来たりと、落ち着かないようだった。


『病院、急がないと!』


『大丈夫だよ、まだ10分間隔だしそんなに痛くないから!それにちょうど検診の日だし!あ、でも車の運転は恐いから、病院まで送ってくれる?』


『わ、分かった。仕事場へ電話してくるよ!』


予定日を三日過ぎての陣痛、もちろん不安は大きいけど、陣痛が来た事がなにより嬉しい。

だってもうすぐ、もしかしたら夜には、この子に会えるかもしれないんだから。

この時の私は、落ち着かない耕平を見て笑うくらい、余裕もあって落ち着いていた。