「お父さんさ、大阪じゃなくて、京都に行ってたんでしょ」
「ああ、京都にも行ったぞ」
曖昧な言い方。
「私、見たんだ。中学の修学旅行で京都に行った時、お父さんが真っ赤な口紅をつけた女性と渡月橋にいたの」
「渡月橋……」
やっぱり。お父さんは娘を納得させるための言い訳を探している。
でも、そうじゃなかった。
真実は正しい方向を向いていた。
「梨織、なにか勘違いしてないか。父さんは大阪の本社へ行く度に京都にも行ってるんだ。社長が京都に住んでいて、梨織が見たその女性は社長のお嬢さんだぞ」
本社が大阪にある事くらい、私だって知っている。
言ってしまおう。
「だって、手繋いでたじゃん」
「社長のお嬢さんは目が悪いんだよ。だから一緒に歩く時は手を貸しているんだ」
そう言えば、あの人、黒いサングラスをかけていた。寄り添うように歩いていたのも目が悪かったから。


