重なり合う、ふたつの傷



気がつけば、もう六時。


私は手を綺麗に洗って、お米を研いで、玉ねぎを刻んだ。淡いピンク色のエプロンをつけて。真ん中には、うさぎちゃんがいる。


「かわいいな、そのエプロン」


「ほんと? 中学の頃からずっとこのエプロンなんだ。お父さんが買ってくれたの」


「梨織はお父さんが好きなんだな」


「うん、前はね。前は好きだったけど、今は……ね」


涙が出てくる。玉ねぎのせいじゃない。私の表面と内側にあるものが涙をもたらす。


大切な天野くんに心配をかけたくない。


涙なんて見せられない。


私は冷蔵庫からひき肉を出そうと後ろを向いた瞬間にエプロンの端で涙を拭いた。


でも、本当はさっきの汗みたいに天野くんに拭ってほしかった。


そうしたら、私の絡まった全ての糸がほどけそうな気がした。