重なり合う、ふたつの傷



さり気なく手を伸ばし、買い物カゴを持ってくれた天野くん。


右肩にはボストンバッグ、左手で自分のカバンと買い物カゴ。


そんなに持たせられない。


「カゴ、私持つよ」


「いいから。梨織は食材選べって」


「うん」



私はカバンのポケットから紙を出して開いた。


「それ、英語のプリントだろ」


「そうだよ。授業中、暇だったから」


「暇だったからじゃねーよ。そのプリント、今日中に提出するやつだぞ」


「うっそ……。留年とか嫌だよ私」


英語の春日先生は厳しくて有名なんだ。春日先生の授業をさぼると進級できないという噂を何度聞いた事か。


「まあ梨織は成績いいから、明日提出しても問題ない。多分な」


「……」


肩を落としていると天野くんが言った。


「夕飯なに?」


「えっ。おにぎりとハンバーグだよ」


「やばい。俺の大好物」


「よかった」


天野くんは私を嫌な事から引き離してくれる、そんな人だと思った。


陳列されている野菜たち。


いつもなら、なにも考えずに手に取るそれがとてもかわいらしく思えた。


恋をしていると野菜さえもにっこり微笑んでいるような、そんな穏やかな気分になる。



ほんの少し、いちゃいちゃしながら買い物を終え、天野くんの家へ。