だって、恥ずかしいもん。
それに他のコに知られたらまずいし。
「なあ、そろそろ離してくれないかな、手」
「えっ」
私が手を離した場所は下駄箱の前だった。
教室からここまで引っ張ってきてしまったのだ。天野くんを。
「……ごめん」
「梨織ってさ、天然だな」
「そんな事ないよ。私、天然じゃない。ちゃんとしてるもん。って、ちょ、ちょっと待って……。今さ、私の事」
「梨織」
「はい」
私は素直に返事をした後、叫んでしまった。
「えーーーーー!!」
「驚きすぎ」
「驚くよ、普通。驚くって」
「じゃ、驚きついでに。梨織も俺の事、名前で呼べよな。でも、二人きりの時だけな」
「……うん。ねえ、天野くん、帰りにスーパー寄りたいんだ」
「ほら、天野くんじゃなくて」
「……蒼太くん」
「よくできました」
天野くんがまた私の頭をぽんぽんした。
だめだって。そのぽんぽん。
もう隠せないよ。
きっと、顔だけじゃなく首や胸、爪先まで、全身真っ赤になってるよ。
私は上履きからローファーに履き替えると、走り出した。
「梨織、待て、って。俺、横浜駅までバス使ってんだ」
聞こえていたけど、振り返らなかった。
だって、恥ずかしいんだもん。
真っ赤なの見られたくないもん。
「はぁ、はぁはぁー」
息を切らしてバス停の前に立つ。
ちょうどバスが行ったばかりで、誰もいない。
呼吸を整えていると、天野くんが普通に歩いてきた。
走って追いかけてくるかと思ったけど、いつも冷静なんだ天野くんて。
横浜駅まで歩いて十五分程度なのにバスを使うわけだし。
私が思っている以上にマイペースな人なのかもしれない。
「なにもそんなに急がなくてもいいだろ。スーパーに寄るくらいの時間、いくらでもあるって。っていうか、梨織、顔真っ赤だぞ」
「でしょ。走ったからね。全速力で」
「走る前から真っ赤だったけどな」
バレてた。
「ほら、汗」
天野くんはポケットからブルーのハンカチを出して私の額の汗を拭いてくれた。
「……ありがとう」
私は視線を逸らせてそう言った。


