重なり合う、ふたつの傷



戸塚駅から満員電車に身を委ねる。


ボストンバッグが邪魔をしているようで、横にいた男性に舌打ちされた。


『ちぇっ』


「すみません」


私は舌打ちが嫌い。舌打ち程、相手の気分を損ねるものはないと思う。でも今は謝るしかない。悪いのは私だから。


ボストンバッグが車内の人の波に押されて、持っている手が引きちぎれそうになった。


やっと学校の最寄り駅である横浜駅に到着。いつも以上に時間が経過した気がした。


駅前のコインロッカーにボストンバッグを入れる。


ルミとどんな顔をして会えばいいのだろう。もう前みたいにはなれないのかな。


そんな気持ちで学校へ向かって歩き出すと後ろから抱き締められた。


「梨織!」


それはルミだった。振り返らなくてもわかるルミの香水、ピーチの甘い匂い。


「ルミ……」


「もう、心配したんだから。何回メールしても返事こないし、電話も繋がらないし」


そうだ、ケータイ。

カバンから出して見ると充電が切れていた。


「ごめん。充電切れてた」


「もう、梨織のバカっ。ってか、私も酷いこと言ってゴメン……」


ルミの目には綺麗な涙が滲んでいたから、私はルミの頭を優しく撫でた。


もういいよ、と簡単には言葉にできなかったけど、これからも一緒にいようね、と伝わるように。



二人で手を繋ぎながら教室へ入ると、天野くんがこっちを見て、首を傾げた。

だから、私も笑って首を傾げてみた。

天野くんも笑ってくれた。

きっと、仲直りをしたのを察してくれたんだと思う。