重なり合う、ふたつの傷



私は走って駅へ向かうと、赤い電車に飛び乗った。

座ってじっくり考える。

今日これからやるべき事を。

1『制服に着替える』


2『服や下着、日用品をボストンバッグに詰める』


3『しばらく友達のうちに泊まると親に言う』


4『カバンとボストンバッグを持って家を出る』


5『横浜駅の改札を出て、コインロッカーにボストンバッグを入れ、普通に登校する』


しばらく友達のうちに泊まると言ったら、お父さんとお母さんは心配してくれるだろうか。

ほんのちょっとでもいい。心配してほしい。


そんな思いを胸に抱きながら家に着いた。


ドアを開けるとお父さんがリビングから飛び出してきた。


外泊した私を心配してくれていたのだ。

もしかしたら、怒られるかもしれない。そうしてほしい。たまには怒ってほしい。


「梨織!」


「お父さん。ごめんなさい」


「いや、謝るのは父さんの方だ。母さんが出て行った」


「えっ……」


予想外の展開に電車の中で考えていたそれが記憶の奥で流れ星のように燃え尽きた。


「捜したいけど、父さん、今日から出張なんだ」


ああそうか。お母さんはファミレスの店長の所で、お父さんは京都の女の所へ行くんだ。