重なり合う、ふたつの傷



零士はシンプルな黒いTシャツとジーンズ姿で私と渋谷の街を歩いた。


「変装とかしないの?」


「しないよ」


そうだ、コンビニに来た時も変装なんてしていなかった。


「バレてもいいの?」


「まだそんな有名じゃないし。それに、もしファンに気づかれて追いかけられたら、それはそれで嬉しいよ」


意外に素直なんだ。

まあ、渋谷の街には金髪さんが沢山いるから紛れてしまえば却って目立たないかもしれない。


この街は生きている。行き交う大勢の人々によって起こる残像。

無限に景色が止まる事はない。

ビルやアスファルトが、そして、街全体が呼吸している。

色んな人がいていいんだ。個性を潰す権限など誰にもない。