重なり合う、ふたつの傷



私は零士と裏口から出る事になった。


零士はいつも歩いて帰るという。

ファンが後を追わないように、先にワゴンが出てファンの気を引き、零士も乗っていたと思わせ、帰らせる。

どうやらそういう作戦らしい。


「なんで歩いて帰るの?」


「ライブ終わってさ、そのまま家に帰るとスッゲー寂しいんだ。あんなにきゃーきゃー言われてライト当たって、オレ輝いてたはずなのに、家に帰るとただの男。虚無感に襲われるからさ。ヒートアップした体を外の風で冷ましながら帰んの」


この人もなにか抱えているんだと思った。

みんなそう、なにかを抱えながら生きている。

右耳の五つのピアスは痛みの象徴なのかもしれない。