天野くんの顔、声、体。

そればかりが思い浮かぶ。

振り払えないそれを抱えながら帰るとマンションの前で制服姿のルミがしゃがんでいた。


「梨織っ!! 心配したんだよ」


ルミはそう言うと私を抱き締めてくれた。

お母さんはまだ工事現場での仕事を辞められずにいて、お父さんも残業の日々。


もし、このまだ慣れていない部屋にひとりでいたら、いつまでも泣いていただろう。

ルミが抱き締めてくれた事で涙が静止した。


ルミが清水くんから聞いたらしい。


お互いのために離れて暮らす方がいい。

もしかしたらそのままアメリカの高校へ編入すると天野くんが言っていたと。


お互い、って私と天野くんって意味だと思った。



最近、若いお母さんが子供を虐待死させたというニュースが幾度となく繰り返されていた。

そのお母さんも子供の頃、虐待されていたらしい。虐待が虐待を生むというこれまでの事件も掘り起こされるかのように報道されていた。


天野くんもこのニュースを目にしたのだろう。


私のお母さんも、抹茶パフェのお店にいたお母さんも、自分の親に虐待されて生きてきた。

私もそう。だから私もそういうお母さんになってしまう。


天野くんが危機的意識を持ったとしてもなんの反論もできない。