「アンタ、凛の何なの?」
にいさんは、さっきあたしに向けていた質問を智紀に投げつけた。
「飼い主」
「は?」
意味不明な返しに、にいさんの眉がピクリと動く。
だけど智紀は、変わらずぎゅっとあたしの肩を抱いていて……
「それと、大事な子。
だから守らないといけない子」
「……」
そして続けられた言葉に、胸がトクンとときめいた。
恐怖でドクドクと波打っている合間に高鳴る、小さなときめき。
智紀に触れられている箇所が、守られているようにほっとする。
「……ふーん……。厄介なことになってんね」
怖くて、そっちへは振り返られない。
感じたのは、そう言ってめんどくさそうにため息を吐く息遣い。
「じゃあ、とりあえず今日は帰るよ」
にいさんも、これ以上無理強いをする気はないようで、パッと両手を上げて一歩下がった。
だけど恐怖はまだまだとれなくて、目の前の智紀の服の裾を掴んだまま。
「凛」
再び呼びかけられたにいさんからの呼び名に、またビクッと体が震えて……
「お前は一生俺から逃げられないよ」
最大の、恐怖の言葉を吐いて去って行った。