「アンタって不思議な男ね」
「まーな」


にやりと微笑む顔。
面白そうに笑う笑顔。

本当に、あたしのことなんて迷惑とか感じていなさそうで、ただ面白そうという理由で引き留めている。


「ってか、俺これから仕事なんだわ。
 部屋とか好きに使っていいから、とりあえずお前は寝てろよ」

「あ……うん」

「帰って逃げてたら、探し出してやるからな」

「……」


どこまで本気で、どこまで冗談か分からない。

だけど彼なら、本気であたしを探しだそうだ。


「昼も適当に冷蔵庫漁って。
 プリンとかゼリーとかも買っておいたから。昼は薬飲めよ」


まるで母親のようだ。

智紀は全部を言い切ると、慌てたように部屋を出て行った。


ふと時計を見ると、8時過ぎ。
あぁ、世間一般的に仕事の時間か。


「……」


出て行くこともできた。
言いつけなんて守る必要もなかった。


けど、熱でけだるい体。
せっかく泊めてもらえるこの場所から、逃げる必要なんてない。


体を求められたら渡せばいいし、
出てけと言われれば、出て行けばいい。


そう思いながら、再びあたしは、深い眠りへとついた。