「凛が神楽坂でいるのが、俺が嫌だ。
 凛がそれでもいいって言うんなら、それは仕方ねぇけど」

「あたしも嫌。もう神楽坂は……」

「じゃあ、なって。横川に」

「……」


じわりと涙が浮かび上がってくる。

あたしの籍を神楽坂から外したいという理由だけでは、きっとそんなこと言わない。
智紀も智紀なりの決心と……想いがあるからで……


「返事。今は聞けない?」


顔を覗き込んで、優しく見つめてくる。


あたしに考える時間なんて必要ない。
ずっとずっと、自分を愛してくれる家族が欲しかった。


冷たく、籍しか関係ないような家族なんかじゃなくて……
自分が心から愛し、自分を心から愛してくれる人……。



「なり…たいっ……。
 横川凛に……なりたいっ……」



もしもそれを許してくれるのなら
あたしも早く、智紀と同じ籍に入りたい。



「じゃあ、なれよ。

 一緒に生きていこう」


「っ……うん」



この日、
あたしは一生分の嬉し涙を流した。