「お前、名前なんて言うの?」


おかゆも器の半分くらい食べ終え、いい加減ギブしたところで薬を流し込んだ。

グラスをお盆の上に乗せると、振り掛けられる質問。


「……凛」
「リン、か。鈴みてぇ」
「アンタは?」
「智紀。横川智樹」
「ともき……」


人の名前を聞くなんて、どれくらいぶりだろう。

今ままでも名乗るくらいはあった。
だけど自ら聞くことはなかった。
呼ぶ必要がなかったから……。

なんでか、彼の名前だけは気になったんだ。


「お前、いくつなの?」
「18」
「うわ……。っつか俺、犯罪じゃね?家の人とか心配してないの?」
「しない。もう何ヶ月も帰ってないし」
「家出少女かよ」
「……」


ああ、そっか。
世間から見れば、あたしは家出少女。

確かにそうだ。
あたしは黙ってあの家を出た。


一刻も早く逃げ出したくて……。
自分が壊れてしまう前に、あいつから逃れたくて……。


「ごめん。やっぱあたしみたいな女、厄介でしょ。
 迷惑かけるから出て……」

「行かせない。だから、熱が下がるまでは、ここでおとなしくしてろよ」

「……」


彼……智紀は、再びそう言って、あたしを引き留めた。