ノラ猫

 
「お、まえ……」


そこにいたのは、今殺したいほど憎い男……凛の義兄。

車に乗って、開いた窓越しに俺を見上げている。


「こんな朝早くに散歩でもしてたの?」
「お前、凛をどうした!?」


向こうの問いかけは無視して、すぐに凛の行方を問い詰めた。

バンと車を叩きつけると、それを迷惑そうに見やる。


「どうも何も。家に帰ってるけど?」
「どういうことだ?お前が連れ去ったんだろ!?」
「そう言う言い方やめてくれる?
 まだ未成年の子供が家に帰るなんて当然だろ。
 それに連れて帰ったのは俺じゃない。親父のほうだ」
「な……」


まさか、そこで義父の存在まで出てくるとは思わなくて、詰め寄った力が一瞬止まった。


「少しは感謝してほしいくらいだよ。
 凛がいなくなって、バカみたいに探し回ってると思ったから、わざわざ伝えに来てやったって言うのに」

「ふざけんな!
 おまえらが無理やり、凛を閉じ込めてんだろっ」

「それはどうだろうね。
 近いうちに、凛からも連絡するよう伝えとくよ」

「おいっ!!」


それだけ言うと、義兄は窓を閉めてしまった。

それと同時に発進しだす車。
必死に抑えようとしたけど、俺がいることなんてまるでお構いなしに車は走り出して……



「ざけんなっ!!」



最後に不敵な笑みを見せた義兄を最後に、車は遠くへ走り去ってしまった。