親を亡くした子供なんて数え切れない程いる。
ひとりぼっちの子供だって数え切れない程いる。
村の厄介者だなんて、よくある話。
悲しむ者がいないから生贄に選ばれたなんて――よくある話なんだ。
だから。
私は、自分が可哀想だなんて思わない。
村の若い女達が黙々と少女の身形を整えるのを、少女――寧々もまた黙って見ていた。
ぼさぼさだった栗色の髪は綺麗に櫛で梳かし付けられ、太陽の光を弾いて眩しい程に煌めく。
着物だって継ぎ接ぎだらけの小袖だったのが、今では真新しい純白のもの。
顔には白粉が叩かれ、唇に薄らと紅が引かれる。
背中まである髪は結い上げられ、葉や木の実で造られた髪飾りを丁寧に付けていく。
そして頭の先から足の先まで清められ飾り付けられた寧々は、村人達に見守られる中神輿に乗せられた。
「村の為なのじゃ、寧々。怨まないでおくれ……」
長老がそう言ったのを最後に、神輿は担がれた。
目指すは森。
父が眠るそこで、寧々もまた眠る。
数人の男に担がれた神輿は、唄と共に揺られながら進み始めた。
ゆっくりと流れていく景色を眺めながら、神輿の上で正座をしたまま寧々はぼんやりと考える。
生まれ変わったら何がいいだろう。
自由に空を飛べる鳥もいい。
秋には綺麗な声で歌う鈴虫もいい。
森を駆ける鹿もいいし、海を悠々と泳ぐ魚もいい。
――ううん、生き物じゃなくてたっていいよ。
空に浮かぶ雲の一欠片でも、森の木々の中の一本でも、浜辺に押し寄せる唯一度きりの波だっていい。
ねぇ、父ちゃん。
黄泉の国はどんな所なのかな。
苦しいかな、熱いかな、それとも痛いことをされるのかな?
でもね、私は平気だよ。
だって、そこならひとりぼっちじゃないでしょう?
そこなら、ひとりぼっちだからって仲間外れにされないでしょう?
父ちゃんがいるもの。
昔飼ってた兎もいるかな、どうかな。
そっちなら、ずっと一緒にいられるね。
嬉しいな。
……あ、だけど生まれ変わったら一緒にいられなくなるのかな?
それは嫌だな。
ねぇ、父ちゃん。
生まれ変わる時は一緒に生まれ変わろうね。
一緒には死ねないから、生まれる時くらい、ね?
もうすぐ、そっちに行くから。
