化け狐は暴れ続けた。

村人を食い荒らし、壊すものがなくなるまで、狂ったように暴れ続けた。

犠牲者は村人の約半数にも上る。

そして、その多くは化け狐に勇敢にも立ち向かった村の若い男達だった。


「あんなに若い衆を、それも男を失って……わしらはどうしたらいいんじゃ……」


残された村人達は項垂れる。

泣き喚く我が子を女達は強く抱き締め、絶望に染まる瞳が宙を彷徨う。

夜明け前の薄暗い空は、燃え盛る炎で赤く染まっていた。


皮肉にも。


村の厄介者として外れに住まいを構えていた少女は傷一つなく、絶望に打ちひしがれる村人達に只胸を痛めながら遠くから見守っていた。

――夜が明ければ自分が生贄となることなど、知る由もなく。




* * * * *




「寧々、起きなさい」


久しく名を呼ばれた。

だが、それに喜ぶよりも前に告げられた言葉に、少女の顔は悲しみに染まった。


自分の家に戻り、漸く深い眠りに就いた時だった。


普段ならば誰も寄り付かない自分の家に、張り詰めた表情の数人の村人達が訪れた。

慌てて飛び起きて迎え入れようとする少女を制し、その先頭、村の長老である翁が重々しげに口を開いたのだ。


「――生贄が、必要なのだ」


たった一言。

しかし、それだけで十分だった。

答えなんて決まっている。

そもそも、選択の余地なんて。

――嫌だ、なんて。



言えるはずもないんだ。



「分かりました」



少女は、笑顔で頷いた。