剥き出しの地層の間から覗く、歪な四角形の空に浮かぶ欠けた月。
仄かな月明かりの下で、寧々は自分の体を見下ろした。
あれだけ高い所から落ちたのに擦り傷一つ付いていない。
痛むといえば、先程挫いた左足と小枝に引っ掛けた頰くらいだ。
小鬼も寧々と同じように傷一つなく、良かったと心の中で安堵の息を吐く。
「ねぇ、小鬼さん」
「何ダ」
「何で私を追っ掛けたの?」
「……食ウ為二決マッテンダロ」
「そっか」
「アア」
もそもそと膝を立てて自分を抱くようにして丸くなり、寧々は訊ねる。
頭上で吹き荒ぶ風の音が五月蝿い。
「……さっきの妖達、もう追って来ないね」
「……ソウダナ」
「戻らなくていいの?」
「……戻レルナラ、トックニ戻ッテル」
「そっか。……大丈夫。きっと戻れるよ」
やがて訪れる静寂。
寧々が黙れば言葉を発する者は誰もいない。
風の音だけが木霊する。
寧々は膝の間に顔を埋めると微動だにしなくなり、小さな体は時々寒さの為か震えている。
小鬼は素知らぬ振りをしているのものの、時折チラチラと視線を送る。
そして遂に短い堪忍袋の緒が切れたのか、寧々の頭の上に飛び乗ると思い切り叩いた。
「オイ小娘! イツマデソウシテルツモリダ! 寝ル暇ガアルナラ、オレヲ此処カラ出セ!」
小鬼の怒声に、寧々は徐に顔を上げる。
その顔を頭上から覗き込んだ瞬間、小鬼は地面に飛び降りると今度は慌てて下から覗き込んで声を荒げた。
「オ前、何ダソノ顔!」
闇に浮かぶような白い顔。
寧々はぐったりと生気のない目で小鬼を見つめ返した。
「……何だか……胸が苦しいの……」
明らかに先程とは様子が違う寧々に、小鬼はすぐさま声を掛ける。
「小娘、意識ヲ保テ! 持ッテ行カレルゾ!」
叫んだのと同時に、辺りにむわっと立ち込める霧のような獣臭い気配。
小鬼はハッと宙を仰いだ。
