夜叉の恋



心底美味しそうに焼けた魚を貪る人の子の姿を、頬杖を付いてぼうっと眺める妖の姿。

西の空は薄らと赤く染まり、一人と一匹の頬をほんのりと彩る。

食って、動いて、寝る。

只管それを繰り返す寧々を何とはなしに眺めつつ、静はこれからのことを考えていた。

昨夜は寧々の睡魔に合わせて適当にその場で夜を越したが、思えば人間とは家を構えてそこを寝床としている。

幾ら粗末な生活をしていようが寧々もそれは例外ではなく、やはり家を構えてそこで眠っていたはずだ。

―-だとすれば、やはり寝床を探さなくてはなるまい。

直に日は堕ち、人間の時間は終わる。

その前に何処か落ち着ける場所を探さなくては。

寧々は静と違って夜目が利かない。


「寧々」

「なぁに?」


名を呼べば、返事と共に小首を傾げる。

癖なのだろう。


「食い終わったら動くぞ。寝床を探す」

「! ねどこ……。今夜は野宿じゃないの?」

「ああ。……嫌か」

「ううん! 嬉しいよ! 待ってね、すぐ食べるから!」


言うや否や、貪るようにがっつき始めた寧々に、「そんなに急がなくてもいいが……」と声を掛けるも聞こえていない。

小さく溜息を吐き、寧々が魚を平らげるのを待って腰を上げた。


「ご馳走様でした!」

「……行くぞ」

「うん!」


小走りで妖の後を追う人の子。

夕暮れに染まる世界。


――逢魔が時。


本来ならば相容れない、交わることのない二つの世で生きる者同士。

ちぐはぐな出逢いは、やがて歯車を狂わせる。

それを知ってか知らずか、妖は素知らぬ顔で人の子の笑顔に応える。

決して分かり易いものではない。

しかし、確かにその藍色の瞳に温もりを滲ませて。





―-日は、堕ちる。