目を開けたらそこには、月夜に照らされて佇む一人の見知らぬ男がいた。
その横顔が余りにも綺麗で一瞬幻かと思ったけれど、寧々は自分が毒を口にしたことを思い出し納得した。
――嗚呼、そうか。
ここは黄泉の国なんだ。
夢見心地でぼうっと男の横顔を見つめていると、不意にその顔がこちらを向き寧々は慌てて目を閉じ死んだ振りをした。
…否、振りではないが。
しかし死んだ振りは成功したらしく、一向に男の気配が微動だにしないことから、寧々はそっと薄目を開けて覗き見た。
瞬間。
ばっちりと何故か目の前にある藍色の眼と目が合い、寧々は驚いて声を上げて飛び起きた。
どくどくと心臓が早鐘を打つ。
あれ、おかしいな。
心臓なんて動いていないはずなのに。
胸に手を当てて目を見開いていれば、男は小さく笑い目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
近くで見ても人間離れした綺麗な顔だと感心する。
「……起きたか」
呟くように発せられた声は存外低くて、それなのに聞き辛くないよく通る声だった。
寧々はこくこくと頷く。
「えっと……貴方は、誰? かみさま?」
自分が死んだ経緯を思い出しながら、思い付いた単語を上げれば男はかぶりを振る。
「いいや」
「じゃあ、妖?」
今度は男が驚いたように目を見開いた。
「……よく分かったな」
肯定の言葉に、寧々は得意気に歯を見せて笑った。
こんな風に笑うのはいつ振りだろうか。
そして、こんなに誰かと話すのも。
寧々は自慢するように胸を張って答える。
「私、勘は鋭いってよく言われてたんだよ!」
凄いでしょと言わんばかりに身を乗り出す寧々は、嬉しくて堪らないというようにひたすら話し続ける。
まるで、ひとりぼっちの時間を埋めるように。
「それでねそれでね、父ちゃんは村一番の力持ちなの。腕なんて凄くてね、何人も子供を持ち上げて走り回れるんだよ!」
寧々の丸い頬が真っ赤に上気する。
林檎みたいだ。
「……母親は?」
徐に男が口を挟めば、寧々はより一層目を輝かせて嬉々として答える。
「母ちゃん? 母ちゃんはね、すっごい美人!! ほんとだよ!! 父ちゃんが結婚するの大変で何度も心が折れそうになったって言ってたんだ! 優しくてお淑やかで、だけど怒る時はすんごい怖いの……目がね、三角になるんだよ」
真似しているつもりなのか、自分の目尻を指で持ち上げて顔を顰める寧々に、男は思わず小さく笑った。
「……そうか。怖い母親だな」
「うん、怖かったー。父ちゃんも小さい頃、よくやんちゃして怒られたって言ってたよ。だから大人になっても逆らえないって」
けたけたと楽しそうに笑う寧々。
話は尽きないようで、「それでね!」と寧々は目を輝かせて話し続けた。
