11時32分。


「失礼しました」

警備室を出た千秋は、何の装飾もない廊下を歩いていると、

いきなり前に、奈津美が道を塞ぐように立っていた。

「奈津美…」

千秋を見る奈津美の目に、哀れみの色が浮かんでいた。

「…こんなところで、ぼおっとして…もうすぐ始まるわよ」

千秋が、奈津美の横を通り過ぎようとした時…

背中に悪寒が走った。

千秋が振り返ると、宮嶋がいた。

「?」

舌なめずりをし、血走った眼で、千秋を見ていた。

まるで、ごちそうを前にして、我慢できないかのように。

「何だ!貴様」

千秋が身の危険を感じた瞬間…………

千秋の右肩から、血が飛び散った。

最初…熱を感じ…、痛みは後から来た。

「な…」

千秋は何が起こったか…わからなかった。

しかし、千秋の本能は危機を察して、身を屈めると、地面を這うように、飛んだ。

千秋の頭上を、レーザー光線が走った。

千秋の目が、右手に移植された発射口を前に向けている奈津美の姿を捉えた。


「千秋!」

驚く千秋に、一瞬で右手を、こちらに向ける奈津美の鬼の形相が、身を震わせた。

考えてる暇はない。

千秋は、テレポートした。

消えた場所に、レーザーが突き刺さる。

「逃がしたか…」

奈津美は軽く、舌打ちした。

「まあ…いいわ。あの傷では、そう遠くには、逃げられないはず」

奈津美は、切り取った千秋の腕を回収しょうとしたが…下に転がってなかった。

宮嶋が、千秋の血のついた腕を舐めていた。

奈津美は顔をしかめた後、ゆっくりと歩きだした。

「人の心を捨てられぬ者は、あたし達の未来にいらない」

奈津美はまだ、熱を帯びている右手を、剥き出しにしながら、廊下を歩きだした。