「マスター・いつもの」

カウンター内にいる男に、アルテミアはウィンクをした。

マスターは怯えながらも、

「いつもの…とは…何でございましょうか?」

アルテミアは笑顔で、

「いつもの」

もう一度繰り返した。

マスターの指先が、震えていた。

「いつも…いろんなものをたか…奢られ…飲まれているので…」

「わかんないの?」

アルテミアは、マスターの胸倉を掴むと、カウンターから引きずり出した。そして、マスターの耳元で囁いた。

「酒だ…。それとも何か?お前の血で、ブラッディマリーでもつくるか?」

「すいません…すぐにご用意します」


マスターから出されたウィスキーのロックを、

アルテミアは一気に飲み干した。

「く〜う〜。うまい!」

グラスを、カウンターに叩きつけるように置くと、

「お代わり!」

「あのお…」
「あのお…」

僕とマスターの声が、被った。

「何?」

アルテミアは、マスターを睨んだ。

マスターは怯みながら、

「お代の方は…」

「金か」

アルテミアは、カードを見せた。

「払うよ」

「で、でしたら…今までの分も…」

マスターは上目遣いで、アルテミアを見た。

「はあ?」

その一言で、終わりだった。

それから、結構飲んだ後…アルテミアは、

「ご馳走様」

そのまま店の外へ向かう。

「あのお…お代は…」

マスターの虚しい声。

結局、今日もタダ酒だった。