舞子はちらりと、後ろのテーブル席に座るお客を見て、

「こいつらにも…何をする気にもなれない」

舞子の言葉をきいて、テーブル席にいたお客の1人が、立ち上がった。

「やめろ!」

マスターが、叫んだ。

それでも、座ろうとしないお客に、マスターは言い放った。

「ここにいる者だけでは…勝てない…」

苦々しく絞りだすように言ったマスターの姿に、お客も座った。

そんな様子に、舞子はクスリと笑うと、再び美奈子を見た。

「会長……。人を…よろしくお願いします」

舞子は、お金をカウンターの上に置くと、立ち上がり、

美奈子に頭を下げた。

そして、頭をあげると…そのまま、扉に向かう舞子に、美奈子は叫んだ。

「舞子!」

舞子は、足を止め、

「会長。あの人は、言ってました。例え…人以上の力を持っても…人であろうとする者こそ、人であると……あたしの分も、負けないで下さい」

舞子は扉を開け、店を出た。



「詭弁だ!」

舞子が出てすぐに、カウンターに座っている男が、吐き捨てるように言った。

「まさか…あなたも、そう思われるんですか?」

マスターがカウンターから、立ちすくむ美奈子の背中を睨んだ。

美奈子は、聞こえなかったのか…マスターの問いにこたえず、振り返ると、千円をカウンターの上におき、

「ご馳走様!」

急いで、店の外に消えた舞子の後を追った。

音を立てて、閉まった扉を、マスターは睨みながら、

「チッ!」

舌打ちした。





「舞子!」

扉を閉め、辺りを伺った美奈子の目に、舞子の姿をとらえることはできなかった。

慌てて、走りながら、

探したが……もう二度と舞子を見ることはできなかった。

そして、前を探す美奈子の後ろに……今出たはずの茶店がないことにも、

美奈子が気付くことは、なかった。