会話の意味は、わかったけど…比喩が、美奈子にはわからなかった。

だけど……。

(ゲスな会話)

美奈子は、心で毒づいた。



突然、店の扉が開き、美奈子の後ろに足音が、近づいてくる。 

「これは…珍しい!」

マスターは、常連との会話を止め、カウンターの中から感嘆の声を上げた。

「隣…よろしいかしら?」

後ろから、声をかけられ、美奈子はカップを置くと、振り返りながら、頷いた。

「ええ…どうぞ………?」

美奈子の横に座る女の横顔を見て、美奈子の体は、凍り付いた。

視界に入ってきた…その顔は。

「舞子!?」

舞子は、美奈子の方を向け、にこっと微笑んだ。

「お久しぶりです。会長」 

美奈子と舞子は、大路学園で、生徒会長と副会長の間柄だった。

舞子が行方不明になってから、あったことはない。

「あんた……今まで、どこで…」

美奈子は、久々に会った舞子に言葉が出ない。

舞子は、クスッリと笑い、

「それは、知ってるはずですよね。会長は、いかなかったけど…」



美奈子は、口を詰むんだ。

高校生の時と、あまり変わらぬ姿に、驚愕しながらも…明らかに、雰囲気は違っていた。

確かに冷たい程、冷静な女だったが…こんな…つつらのような鋭い冷たさは、なかったはずだ。

「何があった?」

美奈子は、席から立った。

「大したことは…!」

美奈子は、出されたコーヒーをそっと返した。

前に立つマスターを見上げ、

「新しいのを出さなくていいわ。別に、コーヒーを飲みに来たわけじゃないし」

舞子の言葉に、店中にいるお客の体が、ぴくりと動く。明らかに、殺気を纏っている。

それを、マスターが目で止めた。

「ここで…あんた達と揉めても、仕方がない」

舞子は、美奈子の方に体を向け、真剣な表情で、美奈子を見た。

「舞子…」

美奈子は、一度体を震わした。


「会長……。あたしは、人間を守りたかった。あの世界で、出会った人の願いだったから…。だけど…」

舞子はクスッと笑い、

「あたしには、無理ね…。あの世界でも、この世界でも……もう人を守る気持ちに、なれないの」