「そうよね…ひどいと思うわ」

沙知絵の後ろに、舞子が立った。

驚き、振り返った沙知絵の目に、氷のように冷たい笑みを浮かべる舞子が映った。

「あなたに話があるの」

舞子の笑みを見て、沙知絵は凍り付いたように、動けなくなった。

そんな沙知絵に、更に笑いかけると、

「でも……ここじゃなんだらか…」



「え?」

すると、舞子と沙知絵は別の部屋に、移動していた。

あまりのことに驚き、周りを確認する沙知絵に、舞子は言った。

「単なる…テレポートよ」

「テレポート!?」

そこは、研究所内の資材置場だった。

備品のストックが所狭しと、並んでいる。

「…あなた…もうすぐ結婚するんですってね」

狼狽える沙知絵の左手を見て、

「幸せを掴もうとする女は、素敵ね」

舞子は羨ましそうに、目を細め、

「その幸せの為なら、何でもするわよね」

「え」

殺気を感じ、沙知絵は動きを止めた。

「だけど…その幸せが、掴めないとわかったら…どうするかしら」

舞子は、ゆっくりと右手を上げ、人差し指を沙知絵に向けた。

「ねえ?」

人差し指を、沙知絵の顔に向けて、歩いてくる。

「いや…」

恐怖を感じ、後退ろうとしたが、

足下が凍っていた。

「あなたも…薄々気付いていたはず…。そして、さっき確認したはず」

舞子は、優しく微笑みかけ、

「自分も、進化しはじめていると…」

沙知絵は、言葉を発することができなくなった。

そんな沙知絵を愛しそうに、見つめ、

「あなたは、人間ではなくなる。それなのに…あなたの愛する人は、ただの人…かわいそうに…」


舞子の人差し指が、沙知絵の眉間に触れた。

その瞬間、額から、熱いものが、沙知絵の中を駆け巡り…沙知絵の皮の下を溶かしていく。

「愛する男を、生かすには…あなたの作った腕を、彼に付けなさい……。そして、ある女に会うようにいうのよ」

舞子は、溶ける沙知絵の脳みそに向けて、暗示をかけ始めた。