天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

「僕に欠けてるもの…?」

すべての仏像の表情を、僕はチェックした。

憤怒の表情を浮かべる者もいるが…中央に立つ像達の表情は…

優しくも見えるが…憂いを帯びているようにも…無表情にも思えた。

「ねえ?赤星…こんなところ、ささっと出ようよ」

肩の上で飛び跳ねながら、ティフィンは言った。

だけど、真剣に観察している僕に、ティフィンの声は聞こえない。

ティフィンは仕方なく、肩から飛び立つと、仏像の周りを飛び回った。

「あああ…何か辛気臭い!」

仏像の顔を、目の前でまじまじと見て、ティフィンは顔をしかめた。

半回転すると、仏像に沿って、下を頭から落ちていく。

「うん?」

ティフィンは地面にぶつかる前に、空中で止まると、

ふと、おかしなものに気付いた。

大日如来の周りにいる仏像の何体かが、何かを踏ん付けていた。

「赤星!何か踏んでるよ!!赤星!赤星!」

何度も名前を連呼するから、あまりのうっとおしさに仕方なく、僕は答えた。

「それは、仏敵をこらしているんだよ!確か、餓鬼だったはずだ」

大日如来の顔と、その左横にいる阿修羅像を交互に見つめている僕を、ティフィンは柵に頬杖をつきながら、じっと睨み、

「餓鬼ねえ〜あたしには、違うものに見えるけど」

「違うもの?」

その言葉が引っ掛かり、僕は柵に近づいた。

視線を、仏像の足下に落とすと…僕は眉をひそめた。

身を乗り出して、踏ん付けられているものに、顔を近付けた。

「餓鬼…じゃない?」

木造の為、はっきりとかわからなかったが…。

僕が悩んでいると、右側の仏像の向こうから、声がした。

「人間だよ。それはね。まあ…人間も、餓鬼も変わらんかもしれないがね」

ドアを開け、老婆が仏像の隙間から、僕を見ていた。

「何をしてるんだい!ささっとおいで!」

ちょっとイラついている老婆の様子に、慌てて僕は、柵を伝って、正面から側面を通って、ドアへ向かった。

ティフィンは、仏像の間をくぐり、最短距離でドアの中に入っていた。

僕はちらっと、横から仏像を見た。

やはり、足下で踏ん付けられているのは…

「人間か…」