天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

「早くしな!」

神社の本堂らしき建物の右端にある扉から、半身を出し、急かす老婆の声に、

僕は我に返った。

「す、すいません」

慌てて駆け寄ると、老婆に続いて、本堂の中に入った。

入口を左に曲がると、広間があり、

そこに並べられた数十体の木造に、僕は唖然となった。

八メートルくらいはある巨大な像に、僕は見覚えがあった。

特に、中央で一際大きな像は間違いなく…

「大日如来…」

僕は唾を飲み込み、老婆を追い抜くと、像に近づいた。

柵があり、近付けないが、その姿は、間違いない。

「阿修羅像…。不動明王…。地蔵…」

すべてを把握していなかったが、向こうの世界で、教科書に載っていたものと同じだ。

「どうして…」

仏像の放つ、圧倒的な迫力に、僕は見惚れてしまう。柵を持つ手が、震えていた。

「簡単なことさ。あんたの世界と、こちらの世界はリンクしているからさ」

ひんやりのした空気の為か、老婆の口から出る息が白い。

「しかし…こんなものに、感激するものかね?」

老婆は、僕の隣に立つと、仏像を見上げ、

「所詮…脱け殻さ」

すぐに視線を外すと、柵を横切って、本堂の奥へと歩いていく。

「脱け殻?」

僕は、まじまじと仏像を見た。脱け殻の意味がわからなかった。

老婆は、僕に見られないように、目をつぶり、フッと笑った。

やがて、目を開けると…虚空を見つめながら、

「まあ…あんたには、勉強になるか…。すべての仏像の表情を見るんだね。それが、あんたに欠けているものだ」


「表情?」

僕は、仏像の顔がよく見えないため、柵から離れ、後ろに後退った。

「ご飯の用意するから…後で、奥においで…こいつとね」

抵抗疲れか…ぐったりしていたティフィンの縄を解き、僕に向かって、投げた。 

すると、ティフィンは元気に羽を広げ、僕の方へ飛んできた。

「やっとか!早く離せっていうんだよ」

ティフィンは、僕の左肩に乗ると、老婆に舌を出した。

老婆は肩をすくめ、本堂から出ていった。