天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

「殺す…殺す…ぐげぇ!」

何かを吐き出すような声と、肉が裂ける音がした。

「ま、正志!?」

松永は恐怖の中で、目を見開いた。

「?」

松永の表情の変化に気付き、女は首を傾げると、振り返った。

「ぐえええ!」

獣のような声を出し、そこにいたものは…かつて、正志と言われた人間とは、似ても似つかないものがいた。


四つ足の体に、背中から四本の腕が飛び出し、口は伸び、横が裂け、まるで狼のような姿になっていた。

そのような姿になった正志の額の前に、ブラックカードが浮かんでいた。

ブラックカードは、そのまま…額に張りついた。

その瞬間、正志の体は、黒い剛毛に覆われ、口から炎を吹き出した。


「あらあ…あんた。炎の属性だったのね」

女は、感心したように頷いた。

「ぐえええ!」

額のブラックカードが光り、背中から生えた四本の手の平の真ん中が裂け、そこから炎の束が、

女に向けて、発射された。

「だけど…」

女は、両手を広げ、正面から炎の束を受けとめた。

飛び散る火の粉に煽られて、女の髪の毛が逆立ち、

まるで炎でできた蛇のように、のた打ち回る。


松永は、何とかブラックカードを拾うと、その場からテレポートしょうとした。

しかし、何かに引っ張られるような感じを受けて、テレポートできない。

「じっとしてなさい」

赤く燃え上がる女の姿が、高温で輝く鉄のようになる。

「温度がたりないわ。これくらいはないと」

女は、大きく空気を吸い込むと…正志に向けて、息を吐き出した。

熱風が、正志に吹きかかると、

正志の全身は、燃え上がった。

「ウゲ」

最後の声を洩らし、正志は一瞬にして、燃え尽き、灰になった。

「炎の騎士団長に、炎で挑むなんて…身の程知らずね」

そう言うと、もがいている松永をじろりと見た。

女から伸びた髪が、松永の右足に絡み付いていた。

自分の足が焼ける匂いと、女の…ぞっとするような目に、

松永は、パニックになりながらも、死にたくない思いにかられた。