「そんないい加減なこと言わないでよ!あなたは、あたしたちの世界に、行ったこともないでしょ」

明菜の言葉に、クラークはフッと笑った。

「な、何よ…」

その笑みの不気味さに、明菜は筒の中で、後退った。

「行ったことはないが、知っている」

クラークは、額にかかった前髪をかきあげた。髪に隠れてわからなかったが、結構大きな傷がある。

「私は、この世界で生まれた者ではない。どこかの世界から、こちらに落ちてきた」

クラークは、前髪を下ろすと、

「もしかしたら、君たちの世界かもしれない。なぜなら……私の体にも、魔獣因子があるからね」

クラークは、両手を突き出した。

右手は炎を纏い、左手は氷で覆われていた。

それが両手とも消えると、毛むくじゃらの太い両手に変わった。

明菜は両手で、顔を覆った。

「魔獣因子の発動は、個人によって異なる」

クラークの両手が、普通の人間の手に戻る。

怯えている明菜に、クラークは微笑みかけた。

「恐がっているようだが…君の愛する赤星浩一もまた、魔獣因子の持ち主だと思われる」

「こうちゃんが…」

「彼は、天空の女神アルテミアと融合できるだけではなく、自ら炎を操ることができる。それも、魔法を使わなくてもだ」

クラークは、衝撃を受けて、強ばっている明菜を見ながら、魔法陣の回りを歩きだす。

「異世界の者は、レベルが高いと言われているが、他の力を借りず、人が単体で魔力を発生することは、不可能!それに、女神専用の武器を使えることから、推測されることは…」

クラークは足を止め、横目で、明菜を見つめた。

「彼の因子は、魔物の中でも、最上級――バンパイアに限りなく近いか…いや、同じものだと思われる」