すると、九鬼の体を包んでいた戦闘服が消えた。

「な!」

再び激痛が戻り、九鬼は膝から崩れた。

足下を赤の乙女ケースが、転がった。


「この力は…あたしが人間に与えたもの。あたしに、歯向かうことはできない」

「九鬼!」

ガンスロンと格闘しているカレンが、叫んだ。


「さよなら…真弓」

理香子は、ダイヤモンドの剣先を九鬼に向けた。


「理香子!」

九鬼は、理香子の顔を見上げた。

理香子は躊躇いもせずに、一気に九鬼の額に向かって、剣先を突き刺した。


いや、突き刺さらなかった。

「な!」

理香子は手応えのなさに、驚いた。

ダイヤモンドの剣は、何もない闇を貫いていた。


「おのれえ!逃がしたか!」

理香子は剣を握り締め、わなわなと震えた。


「九鬼!?」

ガンスロンに気をとられて、カレンは九鬼が消えた瞬間を見ていなかった。

「いない?」

ちらっと確認すると、理香子の前に九鬼がいない。

「どこにいった?」

気をそらしたカレンに向けて、ガンスロンは左手を突きだした。

手のひらから、巨大な毒針が飛び出した。

視線の端で、毒針に気付いたカレンはピュアハートを盾にして、切っ先を受け止めた。

しかし、毒針の勢いがピュアハートをしならせ、カレンの体をふっ飛ばした。

グラウンドに隣接する体育館の屋根に激突した。


「うおおー!」

ガンスロンは咆哮すると、近くに立つ理香子に気付いた。

そして、右手を付け根から回転させるとドリルと化し、理香子に向けて突きだした。

「哀れな子…」

理香子は、ガンスロンを見ることなく、呟いた。

ドリルと化した右手が、理香子に当たる寸前、

雷鳴が轟いた。

空気が震え、ガンスロンが開けた時空の扉がひしゃげた。


「!?」

九鬼と向き合う時以外は、表情を出さない理香子の表情が歪んだ。

爆音を出す暇もなく、破壊されたガンスロンは原型を留めていなかった。