「理香子!」

後を追おうとする九鬼に、振り返った兜が制した。

「やめておけ!」

妙に迫力のある兜の声に、九鬼は足を止め、構えた。

そんな九鬼の動きに、鼻を鳴らすと…兜は前を向き、歩き出した。

「まあ…どちらかが死にたいなら…別にいいがな。折角、戻れるかもしれないのに」

「どういう意味だ」

九鬼は構えを解いた。


兜は足を止めず、

「私達の世界に戻れるかもしれないと言っている」


「何?」

兜はフッと笑い、

「お前と相原の決着は、向こうの世界でも構わないだろう?」

「も…戻れるのか?」

九鬼がいた実世界に。


しかし、九鬼は複雑だった。

この世界から、消えていいのか。

月影…乙女ブラックである自分にやることはないのか。

一瞬の間で、そこまで自問自答した九鬼に、兜は言った。

「明日だ!」

兜は足を止めた。

「明日…月の道が開く」

「月の道?」

「その為には、すべての乙女ケースが同じ場所に揃わなければならない」

「待て!すべての乙女ケースだと!」

「心配するな」

兜は九鬼に見られないように、にやりと笑った。

「揃うよ」


「待て!」

美亜を抱いたまま、兜を捕まえようと手を伸ばした九鬼の目の前で、唐突に兜が消えた。

虚空を掴んだ九鬼は、絶句した。

しかし、兜はもう…どこにもいなかった。


「くそ!」

九鬼は、掴み損ねた拳を握り締めた。


「すべての乙女ケースだと!」

九鬼は、先程奪ったイエローの乙女ケースを確認した。

握り締めた拳の中に、イエローの乙女ケースが現れた。

九鬼のもとには、ブラックとイエロー。

そして、理香子には…プラチナとダイヤモンド。

カレンは、レッド。

行方不明になったのが、グリーンとブルーとピンク。

あと見つかっていないのが、ゴールドとシルバーだ。


「すべて…集まる」

信じられなかったが、兜がいうからには、確信があるのだろう。


そして、

「月の道…」

それが一番…謎だった。