「アルテミア…」

九鬼は、その姿を見た瞬間、勝てる勝てないのレベルでないことを悟った。

多分、自分は蠅くらいの力で…それなのに、巨大なダムに穴を開けようとしているみたいなものだと。

それでも、戦わなければならない。

「九鬼真弓!」

赤いドレスの女が、九鬼に話しかけた。

「お前は、逃げろ!」

「な」

構え直した九鬼は、女の背中を見た。


アルテミアと対峙する女は、振り向かずに言った。


「ここで、お前を失うわけにはいかない」


「どういう意味だ!」

「それを…」

女は目を細め、

「説明するつもりはない」

「何!?」

九鬼と女が、会話をしている間、闇の者達がアルテミアに襲いかかる。


「ぐずぐずしている暇があるのか?」

女は、倒れている優に目を向け、

「その女が、死ぬぞ」


「!」

その言葉にはっとした九鬼は、優に目をやり…アルテミアをもう一度見た。

指先一つで、闇の者を破壊する圧倒的な力に、

次第にアルテミアから距離を取り、持久戦のようになってきた。


「やつが、本気になれば…すぐに終わるぞ」

女は、どこか遊んでいるアルテミアを見て、冷や汗を流した。

「チッ」

九鬼は舌打ちすると、優に向かって走った。


「早くしろ…カスが」

九鬼が優を背中に乗せると、その場から神速で逃げたのを確認した後、

女は一歩前に出た。

「退け!お前達!」

アルテミアを囲んでいた闇の者達が一斉に、離れた。


「アルテミアの…かわいい姪の相手は、このあたしがしょう!」

女はゆっくりと、アルテミアに近づいていく。

アルテミアは腕を組み、口許を緩めた。

女は顎を上げ、アルテミアを見下すと、自らの胸元に手を開け、ドレスを引き千切った。

「魔王レイの娘…死の女神デティーテェがな!」

人間の女のまったく毛のない裸体から…全身毛むくじゃらの豹を思わす肢体に変わった。



「メタモルフォーゼか」

アルテミアは、にやりと笑った。