「病気?どういうことだ」

カレンは、九鬼に迫った。

「…」

九鬼は無言になった。


少し俯き、考え込む九鬼とカレンの間を

風が吹き抜けた。

その風に、一瞬髪が靡き、頬を触れられた瞬間、

九鬼は顔を上げた。


「どうして…気付かなかったんだ」

九鬼は後ろを向き、

そのままゆっくりと一回転した。


「そうだ…臭いが違う」

九鬼は鼻腔に、まとわりつく臭いを確認した。


「チッ」

そのまま軽く舌打ちすると、拳を握りしめ、

走り出した。




「九鬼!」

カレンには、今の九鬼の行動が理解できなかった。


「待てよ!」

しかし、ほっておく訳にもいかない。

走り去る九鬼の後を追おうと、駆け出そうとしたカレンは、

突然動けなくなった。


「な、何!?」

全身にかかる重力が数十倍になったかのような…プレッシャーが、

カレンの肩にかかったのだ。

「こ、これは!」

カレンの脳裏に、恐怖とともに思い出される記憶。


凄まじい炎を従え、町を人を破壊しながら、

ただ歩く女。


自分は何もできずに、その場から逃げ出し、

その結果、


カレンは育ての親を喪った。


(この…信じられない魔力は…)

カレンは、動けない体でもがきながら、

気を探った。


(女神!!)





「邪魔をするな」

グラウンドの奥にあるフェンスの裏にもたれながら、

カレンに向けて、気を放っていたのは、

スラッとした長身に、カラスのような黒髪を腰まで足らした女だった。

「貴様が一緒に行けば…あの女の目覚めの邪魔になる。それに…」

指先に引っ掛けた眼鏡を、回しながら、女はほくそ笑んだ。


「お前も、あたしも…月影にとっては、部外者。やつらの計画を、あまり邪魔する訳には、いかない」

女は月を見上げると、

「今は、ただ輝いているがいい」

眼鏡をかけた。

「いずれは…すべてが、あたしのものになるのだから」

眼鏡をかけると、女の背は縮み、



「あれ?」

美亜になった。