なぜなら…


人は、

自分で選ばない方が楽だからだ。


おかしいと、声に出せるものは、

他におかしいと排除されるからだ。


そんな者が入れる場所は、

こんな所かもしれない。




九鬼は、使われていない教室で、使われていない机の上に座る…1人の女子生徒を発見した。

制服を着ていない為、

最初部外者が紛れ込んだかと思ったが、

九鬼はその顔に、見覚えがあった。


だから、

「すいません」

九鬼は、注意することにした。

「音楽室や、部室等の指定された場所以外での演奏は、校則で禁止されています」

九鬼のよく通る声が、ギターをかき鳴らしていた生徒の目にも飛び込んできた。


生徒は少し驚いた顔をすると、弾いていた手を止め、弦を手で押さえた。

あれほど響いた音が、一瞬で無音になる。

「それに、下校時間はとっくに過ぎています。早く…」

九鬼の話の途中、生徒は鼻で笑った。


「そうか…」

妙に納得している生徒の様子に、

九鬼は訝しげに、眉を寄せた。

生徒は、そんな九鬼を一度ちらっと見ると、

また笑った。

そして、ギターを隣の机の上に置くと、

今度は九鬼を見据えた。


「あんたが、生徒会長…九鬼真弓か」

生徒は机から降りると、黒のデニムのポケットに手を入れた。

バックプリントが骸骨の緑のTシャツを着た生徒は、ただ九鬼を観察していた。


「あなたは…」

九鬼はどこか挑戦的な生徒に、目を凝らした。

「あたしも、一応はここの生徒だ」



「高木…優」

九鬼は思い出した。

優はまた笑うと、九鬼を指先し、

「そう…正解」

ピストルに見立てて、

「だけど…あんたより年上だ。さんはほしいな」

撃つ真似をした。

「バアン」



九鬼は、顔には出さないが…おどけた感じの優に驚いていた。


なぜならば、優に持っていたイメージは、

無口で、クールだからだ。


学校に滅多に来ないが、

有名人である為、

誰もが知っていた。

天才的歌手であると。