天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

「フゥ…」

自然とため息が出た。


十夜との戦い後、九鬼は生徒会室で1人、書類をチェックしていた。

華やかに見える生徒会活動も、実は地味なのが多い。

書記や会計は、しばらく空席になっていた。

何があったのか…知らないが、すべての雑務は九鬼がしなければいけなかった。

庶務と副会長はいる。どちらかが、書類をまとめてくれたようだ。

特に、副会長は頼りになり、九鬼が留守の間、生徒会を切盛りしてくれていた。


別に、生徒会の仕事を苦に思うことはなかった。

学園の仕組みも、理解しやすい。

ただ…。

九鬼はテーブルの上に、乙女ケースを置いた。

すると、乙女ケースが小刻みに震え出した。

九鬼は立ち上がると、乙女ケースを掴み、生徒会室を飛び出した。

分厚い扉を開け、廊下に踊り出ると、九鬼は節約の為、非常灯以外明かりのない廊下の向こうに、目を凝らした。

非常灯の届かない闇から、足音と声が聞こえてきた。


「あたしは…生きる価値がない…あたしは、死んだ方がいい」

ふらふらと左右に首を振りながら、近付いてくる女生徒がいた。

「どうなさったの?」

九鬼は、心配げに声をかけた。

しかし、体は右足を前に出し、少し腰を下ろし、構えた。


闇の中から全身が見えるようになると、女生徒の手に答案用紙らしきものがあるのがわかった。


「あたし…勉強したのに…あたし…精一杯頑張ったのに…」

女生徒は、答案用紙を突きだした。

その瞬間、五メートルは離れていた女生徒の距離が、零メートルになった。


「!?」

九鬼の目の前に、赤点の答案用紙が示され、

視界をふさいだ。

「…あたしの頑張りは…意味がないんですかあ!」

突然、答案用紙を突き破り、鋭く尖ったものが、

九鬼の額を狙った。


九鬼は背中を曲げ、その攻撃を避けると、ブリッジの体勢で床に両手をつけ、回転した。


「あたしに、価値はないの?」

答案用紙を貫いたものは、女子生徒の舌だった。

「ねぇ…教えてよお!」

舌が、答案用紙を切り裂くと、

目が普段の三倍は膨張した女子生徒の顔が、九鬼を睨んでいた。