天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

自分を見つめる九鬼に、里奈と呼ばれた女はにこっと笑顔を見せた後、

九鬼を睨んだ。

「誰と間違えてるのか、知らないけど!あたしは、梨絵よ!」

その女の剣幕より、九鬼は呟いた自分に笑った。

「フッ…そうね。人違いだわ。ごめんなさい」

素直に頭を下げた後、九鬼は席を立った。

「で、そう梨絵さんが、あたしに何の用かしら?」

突然、近づいた九鬼の視線に、

梨絵は一瞬怯んだ。


が、すぐに拳を握り締めると、九鬼を睨んだ。

「昼休み…」

一度、言葉を切ると、額に皺をつくり、

「屋上で待ってる」

凄い形相で睨み付けた。


「わかったわ」

九鬼は逆に、穏やかな表情になり…頷いた。


そんな九鬼に舌打ちすると、梨絵は身を翻し、教室を後にした。


九鬼は、梨絵を見送ることなく、

すぐに座った。




2人のやり取りを後ろから見ていたカレンは、九鬼の変化に気づいていた。


(なんだ?)

最初…梨絵という女を見た時、明らかに九鬼は間違っていた。

知り合いと。


つまり、梨絵とそっくりな女がいる…

ということが問題ではなく、

(あれは、間違いではない)

九鬼は謝ったが、間違いを認めた感じではなかったということだ。

(知っている相手だが…向こうが覚えてない。それとも、同じ別人…)


自分が出した答えに、カレンは苦笑した。

(馬鹿な答え…)


しかし、その答えが当ていることを、

カレンは後に知ることになる。




チャイムが鳴り響き、休憩時間の終わりと次の授業の始まりを告げた。

カレンも、九鬼も、姿勢を正し、

ただ前を見つめた。

彼らに、授業をさぼるという考えはなかった。

学ぶことに、意味がない訳がない。

知識を得ることができる。

それが、人が自由であるということだから。

何も知らされていない世界で生きることは、

人が奴隷であるということなのだ。

それに気づいている人間は、少ない。

知識を得ない人間は、奴隷と変わらない。