天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

授業が終わり…休憩時間になっても、

九鬼はほとんど席から動かなかった。

次の授業の予習でもしているのだろう。

相変わらず、隙はないが、

かといって気を配っているでもない。

ごく自然に振る舞う九鬼に、カレンは少し拍子抜けを感じ始めていた頃。


「!」

あからさまな殺気を感じた。

自分に向けられていないが、殺気を放つ人物は近い。

カレンは背伸びをして、ストレッチでもするかのように、体を動かし、

視線を廊下の方にやった。

かなり早足で廊下を駆け抜けていく人物。

それは、生徒ではなかった。

「教師か…」

黄緑のスーツを着た女教師は、横目で教室内を見つめていた。


カレンは一瞬で、その教師の視線の先を理解した。


(今のは…)

カレンはその女教師から、圧倒的な自信と自惚れを感じ取っていた。

人の歩く姿だけで、大体人の性格や心情を見抜くことはできた。

今のようなタイプは、自分のスタイルに自信があれば…胸を張り、風を切るように歩く女はいる。

しかし、それだけではなかった。

自分の力をひけらかしたいチンピラが、絡む相手を探してような威圧感があった。

女で、そんな雰囲気を醸し出すことは珍しい。

つまり、今の女は、

肉体的にも、他の圧倒する力を有していることを自ら示していたのだ。

(だとすれば…)

カレンは心の中で、にやりと笑った。


(今の女は…)

カレンはストレッチをやめた。

(月影!)


月影は、女しかなれないらしい。

カレンは、女の後を追おうとしたが、

教室に女子高生が1人、入ってきたことに気付き、席を立つのをやめた。

なぜなら、

その女子高生もまた…先ほどの女教師と同じ雰囲気を醸し出していたからだ。


その女子高生は、九鬼の前で足を止めた。



九鬼は女子高生を見上げ、呟くように言った。

「里奈…」

どうやら、九鬼の知り合いのようだった。