は、は、は…。


は、は、は…。


は、は、は…。


は、は、は…。


は、は、は…。


は、は、は…。






激しく息を切らしながら、男は闇から逃げていた。

いや…闇ではない。


闇の中で、輝く光だ。




「ど、どうしてなんだ!」

行く場のない闇を手探りで進みながら、男は…何も見えない暗闇の地面に足をとられて、転んだ。

激しい頭を打った衝撃が、そこに地面があるということを教えてくれた。

「ど、どうして…」

打ち所が悪かったのか…頭から血を流す男に近づいてくる光は、微笑んだ。


「あなた達…人間が、月に対してできることは…見上げるだけ」

男の闇だらけの視界に、眩しく輝く女の姿が飛び込んできた。

「疑ってはいけないのよ」

まるで、ダイヤモンドのように輝く体とは対象的に、

その表情は、眼鏡の表面が光ってわからない。

ただ…口元の笑みだけが、強調されていた。


「わ、私達…人間は!」

男は腰が抜けたのか…ダイヤモンドに輝く者を見上げながら、後ろ手で離れていく。

「太陽の勇者を失った!だ、だから、次の希望の…ひ、光が必要なんだ!」

男の悲痛な叫びに、輝く者は鼻を鳴らし、

ゆっくりと、両手の指を揃えた。

「月は…希望の光ではない」




「うぐう!」

次の瞬間、男の口から血が溢れた。

輝く者の手刀が、男の胸に突き刺さっていた。

「お、お…」

男は、目の前まで接近した輝く者の顔を見上げた。



「乙女ソルジャー…」

そして、顔をかかる眼鏡に手を伸ばそうとしたが、

途中で上げた手は、力尽き…地面に落ちた。



「乙女ソルジャー…」

輝く者は手刀を抜くと、男から離れた。

「下品な名前」

顔をしかめると、輝く者は眼鏡を取った。

「と、思わない?」

輝く者の姿が変わる。

スーツ姿の…女に。

「理香子」

そして、自分の後ろにいる女に笑いかけた。