月日は流れた。


数年後、九鬼真弓は十歳をこえていた。

いつもの如く…次々に部屋を訪れる者達を、相手にしていた。

「うぐ」

相手に何もさせないで、九鬼は敵を気絶させた。

毎日の死合いが、九鬼を普通の人間では到達できないレベルに成長させていた。

幼き頃のように、相手を殺すことも、腕を切り落とされることもなくなった。

野生動物は、部屋に入るだけで、戦意を失った。

そんな状況を半年間、見守り続けた才蔵は、最後の仕上げにかかる時にきたことを悟った。

「もう人では…相手できないな」

才蔵は、モニター室に備え付けている電話を手に取った。




それから、また時は数日流れた。

部屋で、相手を待っていた九鬼の前に、1人の女の子が立っていた。

学生服を着た少女は、九鬼を見るなり、睨み付けた。

「あんたが…あんたなのね!」

少女は、ナイフを持っていた。

「?」

九鬼には、理解できなかった。

殺気ではあるが、少女から発するのは、今までの相手とは雰囲気が違った。

それが、怨み…憎悪、絶望の感情であることが、九鬼には理解できなかった。

今までの相手も殺気や、恐怖を向けることはあっても、怨みはなかった。

訝しげに、自分を見ている九鬼に気付き、少女はさらに発狂した。

「あんたが、いらなくなれば!あたしは、今のままでいられるんだ!」

ナイフを持って突進してくる少女を、九鬼は軽くあしらった。

突きだすだけのナイフを避けると、少女の足を払った。

「きゃあ!」

転ぶ少女。ナイフは、床に転がった。

慌てて、立ち上がろうとする少女は思わず、そばに立つ九鬼を見上げた。

冷たく、射ぬくような視線に、少女は一瞬でパニックになり、

「ヒイイ!」

武器であるナイフを拾おうと、手だけで探した。

視線は、九鬼から外せなくなっていた。

だから、床に転がっているナイフを掴んだ時…そこが刃であることに気付かなかった。