天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

「失礼します」

ドアを開け、中に入った九鬼は、目を見開いた。


六畳程の1人部屋の端で、本を片手に佇んでいるのは、紛れもなく…

一階で会った女の子だった。

ベッドの上でくつろいでいた女の子は、九鬼に顔を向けることなく、読んでいた本を閉じると、無造作さにシーツの上に、置いた。

本の題名は、夏目漱石のこころ。


「やあ」

一瞬、固まったことを悔いた九鬼に対して、ベッドの上にいる女の子はスローモーションのように、ゆっくりと顔を向けた。

九鬼は心の中で、舌打ちをした。

(そういうことか!)

九鬼に向かって、微笑を浮かべる女の子は、しばらくじっと九鬼の体を観察していた。

「女の子の体を…乗っ取ったのか!」

九鬼は腕を前に突きだすと、ベッドまでの距離を計り、一気に襲いかかろうとした。

「あらあ…いけなかったかしら?」

首を傾げる女の子に向かって、九鬼はジャンプした。

「返せ!女の子に、体を!」

九鬼の膝が、女の子にあたる瞬間、

何かに弾かれたように九鬼はふっ飛び、病室の床を転がった。

「無駄よ!この子の脳は、食べたから…。もし、返したとしても、ただの死体になるだけよ」

「食べただと!」

九鬼はすぐに、立ち上がると、乙女ケースを突きだした。

「許さん!」

九鬼のその言葉に、ベッドの上の女の子は眉を寄せた。

「許さないって…それは、あたしの台詞よ」

「何!?」

「折角…産んであげたのに…」

女の子は、ベッドから飛び降りた。

床に着地すると、上目遣いで九鬼を見た。

「折角…」

目だけで、九鬼の上から下を何度も見て、ため息をついた。

「ああ~女の子として、かわいく産んであげたのに!血に塗られて!あなたは、汚れているわ」


「な!」

九鬼は乙女ケースを突きだしたまま、動けなくなった。

そんな九鬼の様子に、女の子はクスッと笑った。

「あなたのことは何でも…知ってるわ」

女の子は九鬼の心をよんだように、じっと目を見…徐に言葉を発した。

「あたしが、あなたを産んだんだから…当然でしょ?」