「また…人が死んだか…」

遠くに感じる命が燃え尽きる悲しみを、ジャスティンは静かに目を瞑り、噛み締めていた。

圧倒的な魔力。

一方的な虐殺。

しかし、自分1人では、守ることはできなかった。


無力…。



「くそ!」

カレンは、ピュアハートを振るっているが、目を瞑り、気をどこかに向けているジャスティンに、当たることはなかった。

「あり得ない!」

人がいない孤島で、ジャスティンとカレンは、組み手をしていた。


ジャスティンは素手、カレンは何を使ってもいい。

最初は、カレンも素手で戦っていたが…全然相手にならないので、思わずピュアハートを召喚したのだ。


しかし、それでも当たらないことに、カレンの苛立ちは最高峰に達していた。

キレたカレンは、最後の手を使うことにした。

「モード・チェンジ!」

カレンの体が変わる。

喰らった魔物の能力をコピーできるピュアハートは、カレンの体躯をトリケラトプスに似た姿に変える。

それは、肉体そのもの…細胞を変えるというよりも、体に纏う気の形を変えるに近い。

巨大な角を、ジャスティンに向けると、突進した。

一瞬で、マッハをこえた角が、空気の壁を貫いた。


破裂音とともに、ジャスティンに突き刺さったはずの角は、あらぬ方向を飛んでいた。

「な!」

絶句したカレンの変幻が解けた。


ジャスティンの回し蹴りが、角を付け根から、へし折っていた。

「あり得ない!」

すぐに、カレンは再び魔物の姿になろうとしたが、

突然、目の前に現れたジャスティンの膝が顎を突き上げた。

そこで、カレンの記憶は飛んでいた。



気を失い、倒れたカレンを見下ろすこともなく、

ジャスティンは星空を見上げた。


「時間がない…」

ジャスティンは、星の輝きに目を細め、呟くように言った。

「人の力を結集しなければ…人は滅ぶ」


また再び目を瞑ったジャスティンの頬を、一筋の涙が流れて、消えた。