僕は立ち上がり、声がした方を探した。

炭の山の中で、微かに息遣いが聞こえた。

僕は両手で、熱い炭と化した人間の山を掻き分けると、その下にいた人物を、助けだした。

「赤星さん」

下にいたのは、炭にはなっていないが、全身に大火傷を負ったジェシカ・ベイカーだった。

「ジェシカさん!」

僕の顔を見て、ジェシカは何とか微笑んだ。

「あなたが…来るなんて…」

「待ってて下さい」

僕は手の平に、気を溜めて治癒魔法を発動し、ジェシカの胸に当てた。

しかし、治らない。

「無駄ですよ。全身が焼けていますから…。とっさに、仲間達があたしの盾になり…直撃は避けられましたが…そう長くは持ちません」

ジェシカは笑った。

「折角…一度は、あなたに、助けて貰った命ですけど…すいません。あたしの使命は、ここまでのようです」

僕は首を横に振り、

「何を弱気なことを!あなたは、戦士でしょ!こんなことぐらいで、諦めるなんて…駄目だ」

「ありがとう」

ジェシカは、真っ赤に腫れ上げった手を上げた。

僕は、ジェシカの手を握り締めた。

「赤星!」

アルテミアの声が聞こえた。

僕は頷いた。

アルテミアの言いたいことが、わかった。

ジェシカを、死なさない方法がある。

それは…。

僕はやったことがないが、バンパイアの従者にすることだった。

ただ血を吸い、力を奪うだけでなく、相手が人間の場合は、自らの従者にすることができる。

但し、そうなれば…ジェシカは僕が死ぬまで、そばにいて付き従わなければならない。

そんな運命を強制するのが、嫌いで…アルテミアも僕もしたことはない。 


(だけど…ここで、彼女を見殺しにはできない)

悩んでいる暇はない。

早くしなければ、死んでしまう。

僕は悩むのをやめた。

(彼女は…生きてほしい)

僕は口を開けると、ジェシカの首筋に噛み付こうと、牙を近付けていった。