研究所の廊下を歩くジェーンは、視線の向こうに佇むジャスティンの姿に気付いた。

突き当たりは、広大な倉庫と繋がっており、周囲を囲む手摺りに、ジャスティンはもたれていた。

(ジャスティン)

優しげな目を向けるジャスティンに、ジェーンは駆け寄ろうとした。

ジャスティンに近付く度に、開けていく視界が、遠くでは見えなかったものを露にした。


「ジャスティン…」


ジャスティンが、視線を向けている人物。

ジェーンは、足を止めた。


ブロンドの髪を束ね、白衣を着た長身の女。

その美しさは、嫉妬すら馬鹿らしい。

(ティアナ・アートウッド)


美貌と強さ…天才的な頭脳を有する勇者。


ジャスティンは、ティアナの話をただ聞いていた。

ジェーンは足を止め、ジャスティン達に背を向けた。そして、来た道を戻っていく。

(あたしには…向けてくれない瞳)

そんな瞳を向けても、ジャスティンが報われることはない。

(ティアナ…)

サイキッカーであるジェーンでも、ジャスティンの心を読むことができない。

それほど、落ち着いており、隙がない。


なのに、ティアナと二人の時は、ジャスティンはほんの少しだが、隙を見せた。

その報われない思いを、切ない心を。 


ジェーンには、耐えれなかった。

ジャスティンの悲しい気持ちよりも、

それに気付かないティアナに。

(何が勇者よ!何が…最高の戦士よ!)

ジェーンは、勝手に流れた涙さえ気付かずに、廊下を走りだした。



「うん?」

前方の角から、姿を見せたクラークとジェーンはすれ違った。

クラークは涙に気付いたが、興味はなかった。

ただジェーンが走ってきた方を見て、鼻を鳴らした。





その数ヶ月後、ジェーンは研究所内から失踪した。