「チッ」

マリーは舌打ちすると、ラルに背を向け、来た方向に戻っていく。

「今回は、退いてあげる」

「マリー様!」


蛙の魔物は、去っていくマリーの背中に、深々と頭を下げた。

ラルも軽く頭を下げるが、

無表情で目だけは鋭く、マリーの背中を見送っていた。




拳を握り締め、屈辱に耐えながら歩くマリー。

何の飾りもない…ただ、真っ直ぐな通路を抜けると、マリーは渡り廊下に出た。

そこだけは、数多くの花が飾られ、魔王の居城の中では、珍しい場所だった。

アルテミアの母親は、花が好きだった。

彼女が生きている時は、城中に花が溢れていた。

渡り廊下で足を止め、少し物思いにふけっていると、マリーの上から、笑い声が聞こえた。

マリーがまた、軽く舌打ちした。

「この様子じゃ〜無理だったみたいね」

蝙蝠の羽根を広げたネーナが、空から降りてきた。

渡り廊下に降り立つとすぐに、いつものメイド姿に猫耳に変わる。

「今、やつと戦う理由がないからな」

「理由ねえ」

ネーナは、馬鹿にしたような表情で、にやっと笑った。

「フン!」

マリーは腕を組み、軽くネーナを睨んだ。

何と言われようが、ラルは別格だった。

女神と言えど、無傷ではすまない。