「おばさんには……。綾子ちゃんは…」

明菜は少し焦りながら、僕にきいた。


僕は、明菜から視線を外すと、

目の前にある家の表札を、見つめた。

赤星という…文字を。

「母さんには、会わない…。もう僕は…人間じゃないし、歳も取っていない…。いまさら、こんな存在になった自分を、見せるつもりはないよ」

僕は、表札から玄関を…そして、二階を見つめた。

ちょうど玄関の上が、僕の部屋だった。

あの頃…毎日潜っていた玄関や、門……。すべてが、違う世界の出来事のようだ。

僕は、唇を噛み締めると、

「綾子は…死んだよ」

呟くように言うと、僕は明菜の方へ顔を向けた。

「綾子は…僕が」

「こうちゃん!」

明菜は、僕の言葉を遮った。

明菜は、僕の腫れた目を見て、すべてを理解した。


「……」

僕は、無言で明菜を見ると、

少し深呼吸をした。


そして、明菜の顔をしばらく見つめた後…再び空を見た。

「こうちゃん!」

明菜は、飛び立とうとした僕を呼び止めた。

僕はまた、明菜を見た。


「明菜…。僕は今回…この世界に来た魔物達を、追ってきただけだ。しかし…敵は、魔物だけではなかった…」

明菜はただ…僕の話を聞いている。

「この世界にも……問題があった。魔獣因子を持つ者が、目覚めてきている。だから…本当は、残るべきなんだけど…。僕には、まだ…この世界を守る強さがない」

僕は、自分の手を見つめた。

「自分が生まれた世界だから…なのだろうか……。辛く感じでしまう」

「こうちゃん……」

明菜は心配そうに、僕を見つめた。

「僕は…まだまだだ…。だから…明菜」