天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

「あなたは…」

美奈子は、マスターの伝えたいすべてのことを理解できたわけではない。

でも、何となくはわかった。

だからといって…それが正しいとは限らない。

美奈子はただ…マスターの言葉のすべてを噛み締めるつもりだった。


マスターの言葉は続く。

「我らは、繁栄を棄てた。人と混ざり……たった数十年で、滅んだ者は滅び…。それ以外は…人になった…。我らは、人を愛していたし…人の向上心に、心打たれていた…。だから、我らは抵抗しなかった。しかし…」

マスターは、両手を天に向け…雷雲を睨んだ。


「あの日…空は真っ赤に染まり…数多くの爆弾が落とされた」


空を覆いつくす…B29の編隊。そこから、落とされる数え切れない爆弾。

それは、無抵抗の人々に、落とされた。


「これほどの虐殺を…私は見たことがなかった。地獄……地獄は、あの世にあるのではない。この世に存在し…それをつくるのは、人間なのだ…」


マスターの脳裏から、その地獄は決して…消えない。

「私の愛した…日本人は、その地獄の業火で、皆…死んでしまった…」

マスターは、美奈子に笑いかけた。悲しい笑顔で。


「そんな世界に、未練はなかったが……人と混ざり、人の中に生きる我らの仲間が…地獄をつくる人間の中で、辛い日々を送っている。その事実に気付いた我は…その者達を、救うことにした。人がつくる地獄から…」


「だからと言って…あなたが、やろうとしてることは、認められないわ」

美奈子は、マスターを見据え、その肩越しに原発が見えた。

「あなたも…地獄をつくろとしてるのだから…」

美奈子はゆっくりと…右手を上げた。