天空のエトランゼ{Spear Of Thunder}

綾子の絶叫に呼応して、化け物になった者達が、泣き叫んだ。


「人のパーソナリティーは、心だという者がいるが……違う!姿だよ」

マスターは、周りにいる進化した者達を見つめた。

「人は、皆…似た姿をしているから、安心するのだ」

美奈子の前にいる数十体の人間だった者の姿は、各々違う。

「同じ姿でないものを……仲間と思うかね」


マスターは、哀しげに周りを見回し、目をつぶった。


「そ、それは…」

美奈子は、一歩前に出た。きっとマスターを睨み、

「わかっていたはずだ!こんなことになることを!」

美奈子の怒りに、マスターは目を開け、じっと美奈子を見つめ…おもむろに話しだした。

「アインシュタインは…広島、長崎に落とした原爆の結果を知って……後悔したらしい」

フッと笑うと、

「人は…頭で理解していても、突き付けられた結果を自ら体験しなければ…後悔などしない生きものだ…」

「だったら…どうして!」

美奈子はマスターだけでなく、化け物になり…泣き叫ぶ人だった者を見た。


「強さ……心の強さ」

マスターは歩きだした。美奈子を見つめながら、

「強さを信じたのだよ。自分自身の…しかし、人はまた後悔した!」


マスターは、美奈子の目の前に立ち、

「人の強さとは、何だね?」

美奈子にきいた。

「え?」

美奈子は、マスターの純粋な瞳に、言葉を失った。


マスターは、答えを期待していなかったのか…すぐに、天を見上げた。



「かつて…人は、強かった…いや、逞しかった…と言ったらいいのかな?」

マスターは目を細め…過去へと思いを馳せた。

今はもう…戻らぬ過去へ。